嘘つきな君

意識を手放しそうになる。

だけど、熱い息の下で彼の唇が頬に押し付けられた。


そっと瞼を開ける。

すると、熱っぽい瞳の彼が私を見下ろしていた。

そして、私の頬を両手で包み込んで、コツンと互いの額を合わせた。


「俺の心は、お前に全部やる」


熱い息の下、麻薬の様な言葉を囁く彼。

そんな彼の両頬を、私も同じ様に包み込む。

愛していると、心の中で呟きながら。


本当は、この人が欲しくて堪らない。

諦めるなんてできない。

心から愛してるの。


だけど、その事を言えば彼が困るのは分かっている。

どうしようもできない事だから。

だから、私は私に嘘つく。

それが、最後に私が彼にしてあげられる事だから。


「その時がくるまで……側にいさせて」

「――」

「その時……まで」


『その時』まで、私はあなたの側にいる。

私の全てを、あなたにあげる。

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