嘘つきな君
私の言葉を聞いて、彼の瞳が辛そうに歪む。

だから、それを閉じ込める為に彼の頭に手を回して引き寄せる。

そして、何もかも忘れるような深い深いキスをする。

その奥に、悲しみを閉じ込める。


そのまま私達は、何度も溶け合う様に肌を重ねた。

私の体の隅々まで知った彼は、言葉通り私をメチャクチャにした。

開いた足を割って入ってくる彼の体。

胸の先端の敏感な場所を、愛撫する。

息も出来ない程、キスの雨を降らせる。


「ンッ……あぁっ」


抱き合って、ただの男と女になる。

身に着けているもの、何もかも捨てて。

地位も、立場も、未来も、何もかも、捨てて。

この小さな世界の中でだけは、私達は自由だ。


「だい……すけ」


私達は、一体どこに向かっているんだろう。

ただ、愛しているだけで。

ただ、それだけの心を持って。

ユラユラと揺れる小さな船はどこに。


行き着く場所あんて、ないと分かっているくせに。

どこか願わずにはいられない。


普通の幸せを。

普通の未来を。


そんな事、願ってはいけないのに。

それでも、肌を重ねている間は。

私の上で揺れる彼の腕の中にいる間だけでも。

刹那の時間だと分かっていながらも、願わずにはいられない。

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