嘘つきな君

そっと彼の頬を両手で包む。

そんな私の手に自分の手を添えて、チュッとキスをした彼。

熱い唇から感じる吐息が、私の女の部分を掻き立てる。


「やぁッ――っ」


何度も導かれる中で、視界の先の彼を見つめる。

愛おしくて、仕方ない彼を。


もっと、他の場所で出会いたかった。

ただの女と男として。

なんの、しがらみもない世界で。

未来が広がっていた、ただの男と女として。

そう思わずにはいられない私は、きっと我儘で強欲。


だけど、あなたの心の一番近くにいるのは、いつでも私であってほしい。

他の誰かじゃ埋められない場所を、私は持っていたい。


「好き」


例え、離れ離れになっても。

互いに違う未来の道を進もうとも。

あなたの心のどこかに、私を置いて。

一緒に過ごした思い出を、忘れないで。

私を愛した事を、忘れないで。




目尻から流れた涙の意味は、もう自分でも分からなかった――。

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