嘘つきな君
「な、何ですか」

「あんた、名前何って言ったっけ」

「はい?」

「名前だよ」

「芹沢……菜緒ですけど」


突然の話の方向転換に訳が分からず、首を傾げる。

そんな訝し気な表情を浮かべた私を気にも留めず、彼は何か考え込むように黙り込んで再びグラスに口をつけた。


何よ、いきなり。

っていうか、さっき自己紹介したのに忘れたの!?

名前もしっかり名乗ったのに、覚えてないってどんだけ失礼なのよっ。

再び怒り心頭になる私を他所に、彼は飄々とした表情で再び口を開いた。


「仕事内容は?」

「はい?」

「どんな仕事してた」

「広報……ですけど」

「仕事の事はどう思ってた」

「はい?」

「いいから」

「――…大変だったけど、やりがいを感じてましたよ。働くことも、好きでした」


バーカウンターの方に向き直って、頬杖をつきながら私の方に視線だけ向ける神谷さん。

あまりにも真面目な顔で問いかけてくるもんだから、真面目に答えるほかなかった。


IT会社だった、私の勤め先。

携帯のアプリやゲームサイトの運営などを手掛けていた。

それらを世間に紹介するのが私の仕事。

正直大変だったけど、働く事は嫌いじゃなかったし充実していた。

業績はまずまずだったはずなのに、まさかこんな事になるなんて思ってもみなかったな。

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