嘘つきな君
ポツリと呟いた私を見て、その切れ長の瞳を細めた柳瀬さん。
その姿を見て、逃げ出したい気持ちになる。
それでも、グッと拳を握ってその瞳を見つめ返した。
「お久しぶりです、芹沢さん」
「どうして柳瀬さんが、ここに?」
「以前も教えたでしょう? 秘書たるもの、感情をあまり顔に出してはいけませんよ」
「――」
「そんなに睨みつけては、あなたの心の中が丸見えだ」
酷く冷たい声が出た私に、柳瀬さんは嘲笑うかのように口元を緩めた。
そして、再び探る様な瞳で私をじっと見つめた。
痛い程の沈黙が私達を包む。
それでも、ここで負けられないと、浴びせられる視線をただじっと見つめ返した。
すると。
「今日は警告にやってまいりました」
「――警告?」
ようやく口を開いたのは、柳瀬さんだった。
ふっと、僅かに口元を緩めて一歩私に歩み寄った。
「なんですか? 警告って」
「言葉のままです。これ以上、彼女を苦しめない為の」
「彼女?」
「もう、終わりにしていただきたい」
私の質問にかぶせるように、告げられた言葉。
その言葉の意味が分からなくて、思わず眉間に皺がよる。
「悲劇の恋愛ごっこですよ」
「悲劇ですって?」
「先日、神谷常務のマンションへ行かれたでしょう?」
その言葉にカチンときて言い返した私に、ただ淡々と言葉を紡いだ柳瀬さん。
だけど、その言葉に目を見開く。
どうして、知って――?
「表向きは、あなたはただの秘書。あの様な行動は慎むべきだ」
「あれはっ……」
「言い訳は聞きません。事実は変わらないのですから」
「――っ」
鷹の様に鋭い瞳が私を追い込んでいく。
じりじりと、まるで獲物に狙いを定めるように。