嘘つきな君
荒い息を閉じ込めて、冷静にいようと思う。

それでも、足の力が抜けて、背中を壁につけながらズルズルとその場に蹲った。


「何よ……」


まるで、預言者の様な柳瀬さんの言葉に唇を噛み締める。

軽蔑するように私を見つめる瞳を閉じ込めるように目を閉じた。


まるで、彼を自分達のモノのように喋る彼の口ぶりが許せなかった。

思わず、カッとなって強い口調で言ってしまった。


確かに、彼の婚約者は園部桃香さんで、年が明けたら正式に発表される。

だけど、それは会社の決めた政略結婚で、そこに心はない。

少なくとも彼は、私を愛してくれている。

例え、この先彼女と結婚しようとも、心は私にくれると言った。

心だけは自由だから。

それなのに。


「目をさますって、何よっ」


まるで、私への気持ちが幻みたいに。

間違っているとでもいうように。


確かに私達は期間限定として付き合いだした。

それでも、今は心で繋がっている。

形だけの彼女とは違う。

婚約者だろうが、心まで支配する権利は誰にも無い。

政略結婚なら、尚更。


心は私にくれると彼は言った。

この先どうなろうとも、心だけは私に。

それを咎める権利は、誰にも無い。


そうだ。

彼の心は私にある。

私だけを愛してくれている。


柳瀬さんの言う事なんて、聞き流しておけばいい。

今日、彼に会えば分かる。

例えその手を離す事になろうとも、変わらず私を想ってくれるって。

会えば分かる。

会えば――…。
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