嘘つきな君
◇
「寒……」
吐く息の白さが増した。
ハァっと息を吹きかけて、凍えてしまいそうな手を温める。
チラリと時計に目を落とすと、もうすぐ日付が変わる時間だった。
――あの日から、一週間が経った。
事務所に帰ってくるはずの常務は、あれから帰ってこない。
社長に会いに行くと言ったまま、帰ってこない。
一週間も、帰ってこない。
きっと緊急の仕事が入ったんだ。
連絡が取れないほど、忙しい仕事が入ったんだ。
そう、自分に言い聞かせる。
モヤモヤと心の中にできた黒い雲を蹴散らす様に。
何度も何度も自分に言い聞かせる。
それでも、一向に心の闇は晴れてくれない。
あの人の言葉が、私に重く圧し掛かっている。
『彼はきっと、目を覚ますだろう』
まるで鉛を飲み込んだように、重い心と体。
油断すると今にも涙が出そうで、ぐっと唇を噛みしめた。
「まだかな……常務」
本当はこんな事したくない。
待ち伏せみたいな、こんな事。
見上げた先にあるのは。
目も眩む様な高さのある、高級マンション。
彼の、マンション。