嘘つきな君

だけど、ここで感情的になってはダメだと自分に言い聞かせる。

きっと、これは彼の意思じゃない。

きっと、何かを吹き込まれたんだ。

だって、私の知っている彼は――。


「ちゃんと説明して?」


荒れる息を一度整えて、静かにそう問いかける。

お願い。

嘘だと言って。

本当の理由を教えて。


祈る様に心の中で、そう唱える。

音を無くした世界に、すべての神経が彼へと向けられる。

それでも。


「――…もう、十分だろう。恋愛ごっこは」


告げられた言葉に、息をするのも忘れる。

面倒臭そうに溜息を吐いた彼が、掴んでいた私の手を振り払った。

ふらりと行き場を失った手が、振り子のように揺れる。


「ごっこ……?」

「もう満足だろう。金持ちの俺に近寄って、付き合えて、いい気分だっただろう?」

「何言って……」

「俺も秘書なんかと付き合えて、いい経験ができたよ」

「――」

「だけど、俺とお前では住む世界が違う。それに、元々こういう約束だっただろう」

「ねぇ……待って……」

「そろそろ煩わしくなってたんだ。彼女面されて、ウンザリしてたんだ」


吐き捨てる様な言葉に、思考回路が停止する。

胸が押し潰されそうで、涙が無意識に頬を伝った。

その言葉が、その声が、全部槍のようになって私の胸に刺さる。

息も出来なくなって、思考が停止する。


「別れよう」


ねぇ。

お願いだから。

嘘だと言って。

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