嘘つきな君
業績も伸びて、ある程度大きな会社になって社員もそこそこいた。
同期や先輩達とも仲が良く、仕事もなんだかんだ言って楽しくやっていた。
辞めたいと何度も思ったけど、辞めずにここまでこれたのは、きっとこの仕事が私に合っていたからだと思う。
それでも、仮に同じ様な仕事にこの先就いたとしても、あの仲間達と一緒じゃないと、きっとこうは思えないかもしれない。
仕事よりも、人が私に合っていたんだと思う。
それぐらい、あの職場は私にとって居心地のいい場所だった。
そんな場所にもう戻れないんだと思うと、今更だけど、なんだか悲しくなってきた。
思わず持っていたグラスをギュッと両手で握って俯いた、その時。
「俺、帰るわ」
突然聞こえた声に、へ? と思う。
ポカンと口を開けたまま固まった私に目もくれず、バーカウンターに預けていた体を持ち上げた彼。
そして、残りのお酒を一気に喉に流し込んで踵を返した。
突然の展開に、訳が分からず立ち尽くす。
「ちょ……ちょっと、急に何よ」
「急用ができた」
「急用っ!?」
あまりの突拍子もない発言に、頭の上に?マークが飛び交う。
そんな私を置いて、ツカツカと出口に向かって足を進める神谷さん。
えぇ!? と思いながらも、反射的にその後を追いかける。
待って待って。
今、結構真剣な話していたよね?
おまけに、自分から会話を振っておいて、このタイミングで帰宅って。
えぇ!?
訳が分からず言葉に詰まる私を置いて、長い足を交互に出して進む彼。
それでも、不意に振り返って。
「またな」
意味深にそう言って、去って行った。