嘘つきな君


「菜緒!」


名前を呼ばれて顔を上げる。

すると、人ごみの中を駆け足で駆け寄ってくる仁美の姿があった。

その姿を見て、ニッコリと笑う。


「ゴメンね。こんな深夜に突然呼び出して。仕事中だった?」

「ううん」

「そっか。なら、よかった」

「どしたの急に?」

「ちょっと飲みに付き合ってよ」

「え?」

「今ね、すっごい飲みたい気分なの」


そう言って、寄りかかっていた壁から体を起こして、ニコニコと笑う。

それでも、そんな私を見て仁美は眉を歪めた。


「何かあった?」

「――」

「顔、真っ青だよ」


笑顔を張り付けた私の顔を覗き込む仁美。

その視線から逃げる様に、笑顔のまま目を伏せた。


微かな沈黙が私達を包む。

何か言わなきゃいけないのに、言葉が出ない。

すると。


「来て」


その言葉と一緒に、突然腕を引かれて顔を上げる。

すると、いつものポーカーフェイスで私の腕を引いて歩き出す仁美がいた。


「ど、どこに行くの?」

「私の家」

「え?」

「こんな人が多い所じゃ、話もできないじゃない」


スタスタと前だけ向いて、そう言う仁美。

その言葉にコクンと小さく頷いて、ただ引かれるままに足を動かした。



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