嘘つきな君
初めは、嘘だと思った。

何か吹き込まれたんだって。

だけど、それはただ思い上がりで、あの言葉が彼の本心なのかもしれない。

私の都合の良い様に考えているだけで、初めから彼は私とは『恋愛ごっこ』だったのかもしれない。


「私バカだから……きっと、何か間違ってたんだろうな」

「――」

「思い上がってたのかな」

「菜緒……」

「だから、捨てられちゃうんだね」


無理に作った笑顔が頬を痙攣させる。

そんな私の姿を、瞳を歪めて見つめる仁美。


私の泣き顔を見て、きっと何もかも把握したんだろう。

悲しそうに、唇を噛みしめている。


「恋愛ごっこ、だったんだって」

「ごっこ?」

「彼が言ったの……ふふっ、私騙されてたのかな」


言葉を一つ落とす度に、私の中の何かが壊れていく。

思い出が、色を失っていく。

ポロポロと口から零れていく言葉が、私の心を暗くする。

でも、止まらない。

行き場をなくした気持ちが、暴走する。


「本当……いい年して、何やってんだろ」


自嘲気に笑った私を見て、突然仁美が私の腕を引いた。

その瞬間、強く抱きしめられる。


「あんたは、間違ってないよ」

「――」

「何も間違ってないから」


暖かい腕の中で、優しい声が聞こえた。

その瞬間、一気に胸の中のものが溢れてくる。

麻痺していた気持ちが、現実を取り戻す。


「こうなる事は……初めから分かってたの」

「うん」

「だけど、彼は言ったの。心は全部私にくれるって」

「うん」

「どんな未来があろうとも、心は私の側にいるって」

「ん」

「でも、それも全部嘘だった。ただの、恋愛ごっこだった」


その言葉を口に出した瞬間、涙が一粒頬を伝った。

唇が震えて、胸が押し潰されそうになる。

彼の口から聞いた言葉が、何度も私を壊していく。


「どうせなら、最後まで騙してほしかったっ」


悲鳴の様な私の言葉と共に、抱きしめている仁美の腕の力が増す。

その腕に縋りつくように、私も彼女の背中に腕を回した。

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