嘘つきな君
それでも、脳裏に浮かぶのは彼の笑顔。

眩しい程の、あなたの笑った顔。


きっと、私はもう狂っている。

騙されていたと分かっても、やっぱりあなたに会いたい。


「忘れるなんて、できないよ……」


ゆっくりと仁美の胸に手をついて、顔を上げる。

頬に流れた無数の涙が、顔を引きつらせる。


「だって、そしたら私が私じゃなくなると思うの」

「――」

「半年っていう短い時間だったけど……間違いなく、彼は私の半分だったから」


まるで、体の一部だったように思う。

彼が嬉しいと、私も嬉しい。

彼が悲しいと、私も悲しい。

彼がいなければ、私は息をする事も、ままならない。


「だから、きっとこんなにも涙が出るんだよ……」


記憶を消してしまったら。

彼の存在を消してしまったら。

もう、それは私じゃない。

思い出一つを分かち合ってきたんだから。


だから、半分を失った今、心が壊れてしまった。

人は半分では生きていけない。

魂の片割れを、失っては生きていけない。

間違いなく、私にとって彼は自分の半分だったんだから。


それでも、そこでふと思う。


もし私の半分が彼ならば。

彼の半分は、私だったのかな?


それでも、その思いはすぐに打ち消される。

あまりにも浅はかな考えをした自分を、自嘲気に笑う。


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