嘘つきな君
「やっぱり世界が違うわよね~。雲の上の人には、雲の上の人しか釣り合わないのよ」



ねぇ。

私はあと何回傷つけば、いいのかな。

あと何回涙を流せば、いいのかな。

あと、これ以上何を失えば、この心は癒えるのかな。


「――今度、お祝いしなきゃいけませんね」


あと、どれだけ心を壊せば、涙は枯れるのかな。












鼻歌が世界に響く。

冷たい風が肌を撫でる寒空の中、明るい歌を歌う。

夏場は人で溢れていた屋上も、今では誰もいない。

枝だけになってしまった木々の間をすり抜けて、ベンチに腰掛ける。

それでも、冷気にさらされて冷たくなったそれに、思わず身震いした。


「お似合い……かぁ」


思わず零れた言葉に鼻歌が止まる。

その瞬間、一気に世界は寂しいものになる。


「ふふっ、確かに美男美女のお似合いだ」


見惚れてしまうほど男前な彼と、目も覚める様な美女。

ほら、お似合い。


今頃、飛行機の中かな。

楽しそうに旅先の話をするのかな。

一緒の部屋に泊まって、一緒に楽しそうに食事をして。

抱き合って、寝るのかな。

私に言ったような言葉を、彼女にも囁くのかな。


「ふっ……」


泣きたくなんかないのに、涙が零れる。

心の中がグチャグチャになる。

名前の分からない感情が、暴れ出す。


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