嘘つきな君

「忘れろって……自分」

――忘れたくない。



「諦めなよ」

――諦めたくない。



「嫌いになっちゃえよ」

――大好き。



私の中に、2人の私がいる。

必死に忘れようとする私と。

過去に縋りつく、私。

相反する2人の自分が、心の中で葛藤する。

それでも。


「会いたいなぁ」


いつでも勝つのは、過去に、未だに彼を忘れられない私。

溢れる気持ちに、全てを塗り替えられてしまう。

彼の嘘も、楽しかった思い出に塗り替えられてしまう。

そして、その瞬間心が壊れる。

狂ってしまいそうな現実の狭間に落とされて、壊れてしまう。


「常務っ……会いたいよっ」


ねぇ、会いたい。

会いたくて堪らない。

涙が溢れて、前になんて進めない。

忘れる事なんて、できない。

これがすべて夢だと、何度も願った。

目が覚めたら、また彼が私の隣で笑ってるって――。


「なんで……なんで……なんでよぉ……っ」


だけど、そんなの夢物語だった。

何度目を覚ましても、私の隣に彼はいなかった。


世界で一番、大好きな人がいなくなっても。

どれだけ辛くっても、どれだけ泣いても、日々は続いてく。


思い出せなくなる、その日まで。

涙が出なくなる、その日まで。

どんな日々を過ごして、誰と過ごして、何を見て、何を感じて生きればいい?

息をすればいい?


苦しくて、辛くて、もう壊れてしまいそう。

会いたくて、会いたくて、心が壊れてしまいそう。
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