嘘つきな君
涙で前が見えなくなって、抗う様に上を向く。

それでも、頬を伝って流れていく涙は泊まらない。


「~~♪」


震える唇で、必死に明るい歌を口ずさむ。

ハッピーエンドで終わる歌を。

幸せに溢れた歌を。

そんな時――。


「……雪だ」


見上げた空から降ってきた、白い結晶。

ユラユラと揺れて、頬に当たる。

そして、ひやりと一度頬に冷たさを残して、一瞬にして消えていく。


それが、まるで自分の恋と同じ様で可笑しくなる。

自分のようで、可笑しくなる。

思わず手の平を広げて、降ってくる雪を受け止めた。


「雪みたいな、人だったな」


手の平に落ちた瞬間、音もなく消える結晶。

跡形もなく、消えてしまった。


それが、彼のようで悲しくなる。

あっけなく消えてしまった。

冷たさだけ残して、消えてしまった。


「積もるかな」


あなたに会いたい。

今も忘れられない。

誰よりも愛した人。

でも。


「さよなら」


あなたを忘れようと、心に決めた――。


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