嘘つきな君
一瞬フリーズしていた頭を、ようやく正常に戻す。

ポカンとしていた顔を緩めて、ニッコリと笑って片手を上げた先輩に駆け寄る。


「久しぶりだな、菜緒」

「どうしたんですか? こんな所で!」

「ん。ちょっと、近くで仕事があったんだ」

「そうなんですか?」


優しく微笑んだ先輩の言葉に合わせるように、ニッコリと笑う。

相変わらずだな、と思って。


近くで仕事があったなんて、きっとそんなの嘘だ。

本当は、どうしてここにいるか、なんとなく分かっている。

先輩はそういう人だから。

きっと、常務の婚約話をどこかから聞いて、心配して会いに来てくれたんだ。


「ちょうど帰り道にここを通ったから、菜緒いるかなって思っただけ」

「ふふっ。先輩って昔からタイミングいいですよね」

「え?」

「ちょうど私も飲みたかった所なんです。付き合って下さい」


ニッコリと笑った私に、先輩の眉がピクリと動く。

それでも、見えないフリをして駅まで向かった







「乾杯ーっ」


頼んだビールを勢いよくぶつけて、喉に流し込む。

きっと、気を使ってだろうか。

個室になったこの部屋は、先輩の優しさだと思う。


「あーっ、美味しい」

「そら、良かった」


ふぅーっと大きく息を吐いた私を見て、クスクスと先輩は笑う。

相変わらず、面倒見がいい。

私にとっては、何でも言えるお兄ちゃんの様な存在だ。

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