嘘つきな君
仮面をつけた悪魔
「んぁーっ」
朝日が差し込むカーテンに向かって、大きく背伸びをする。
ボーっとする頭でテレビの横に置いてある時計に目を移すと、いつもの起床時間だった。
「なんか……虚しい」
体内時計が出来上がっている私は、休みの日でも、こうやって目覚ましの音が無くても、いつもの時間に起きる事がある。
例え、仕事先が無くなっても――。
ボーっとする頭で、そのまま窓の外を見つめる。
不意に思い出すのは、あの男の事。
あの、意地悪で無神経で、腹の立つ男の事――。
悪魔みたいなあの男と出会って、何週間か過ぎた。
あの日、突然帰ってしまった神谷さん。
その事に妙に腹が立って、あの後仁美と先輩を巻き込んで浴びる様にお酒を飲んだ。
それなのに、何故か酔う事も出来ずに解散の時間となり、不完全燃焼のまま眠りにつくハメになった。
「せっかくの飲み会だったのに、あの神谷って男のせいで台無し」
1人愚痴を零しながら、いつもの様にトーストをセットする。
それでも、思い出すのは、あの黒目がちな瞳。
淡いバーカウンターに映し出された、端正な横顔。
どこか色気が漂う、不敵な笑み――…。
そこまで思い出した途端、ブンブンと勢いよく顔を振る。
少しでも夢心地になった自分を薙ぎ払うように。
「かっこよくても、あの性格じゃ願い下げよっ」
記憶の中のアイツに、少しでも胸が高鳴った自分に喝を入れる。
男はやっぱり、顔より性格よ!