嘘つきな君
私の言葉を聞いて、納得いかないといった表情を浮かべる先輩。

その姿を、ニッコリと笑った顔を崩す事なく見つめる。


「これ以上、私にはどうする事もできないですから」

「――」

「だったら、辛い思いをしてまで思い続ける必要はない。だから、一緒に過ごした日々は夢だった。そう思う事にしたんです。そうした方が、私にとっても彼にとってもいい」

「菜緒――」

「私は、大丈夫ですから」


大丈夫。

もう、泣かないって決めた。

もう、思い出さないって決めた。

あの日聞いた彼の言葉が、嘘なのか本当なのかなんて、もうどうでもいい。

戻らない日々を美しいものにしたいと願うのは私の我儘。

それに、彼はもう彼女の元へと行ってしまった。

それが事実。

変わらない事実――。


「私は、平気ですから」


再度ヘラリと笑ってそう言った私を見て、微かに瞳を歪めた先輩。

そして。


「だったら、なんでそんな辛そうな顔してんの?」

「――…辛そう?」

「今の菜緒、見てて痛々しい。本当に笑えてると思ってる?」


真っ直ぐな先輩の言葉に、思わず目を逸らしてしまう。

それでも、先輩は逃げる事すら許してくれない。


「俺を見ろ、菜緒。俺の目を見て、さっきの言葉を言え」

「――」

「言ってみろ」

「――私……は……」

「私は?」


語尾が震えてしまって、言葉を切る。

ギュッと唇を噛みしめて、再び窓の外に目を移した。

その先に見える景色に、目を細めながら。


変わらず脳裏に浮かぶのは。

ただ1人―――…。


「……ズルイですね、先輩は」

「――」

「こんな席、用意するんだもん」


目の前に広がるのは、彼と何度も一緒に見た、宝石を散りばめた様な景色。

そんなの、思い出しちゃうに決まってるじゃない。


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