嘘つきな君
◇◇
不意に携帯の着信が鳴って、動かしていた手を止める。
画面を見なくても分かる。
きっと、さっき送ったメールを見たんだろう。
「――もしもし」
『開けて』
ようやく通話ボタンを押した私に、どこかシビレをきかせた仁美の声が聞こえた。
その言葉を聞いて、電話を耳に当てたまま玄関の扉を開ける。
すると、同じ様に耳に電話を当てたままの仁美が立っていた。
「チャイム鳴らせばいいのに」
「鳴らしたわよ」
「そうなの? 聞こえなかったけど……」
「さっきのメール、どういう事?」
私の言葉を遮って、無表情でそう言った仁美に苦笑いを浮かべる。
そうだよね。
突然あんなメール送ったら、そうなるよね。
「とりあえず入って」
こんな所で立ち話も、と思ったから部屋の中へ仁美を招き入れる。
それでも、リビングの扉を開けた瞬間、仁美は目を見開いた。
「本当なんだ。アメリカに転勤って」
「……うん」
――社長に呼び出されたあの日から、5日経った。
今では、部屋の中の荷物も半分ほどしか残っていない。
「なんで突然?」
眉間に皺を寄せた仁美が、ポツンと残されたソファーに腰かけた私を見つめる。
その瞳を見つめ返したまま、ゆっくりと口を開いた。
「5日前にね、突然社長に呼び出されたの」
「あの神谷社長に?」
「うん……。それで、今度新しいプロジェクトを発足させるから、私を広報のチーフとしてプロジェクトメンバーに採用したいって」
「――」
「大抜擢! あのプレバーとの共同出資してのプロジェクトなんだって。私になんて勿体ないほどの話だよ~」
そう。
これは栄転。
喜ばなきゃ。
「その赴任先が、アメリカってだけの話」
それだけの話――。