嘘つきな君
「例えそうだとしても、私は行く」
仁美の言う通り、この配属が仮に神谷社長か園部会長の思惑だったとしても、それでも私は行く。
彼と一生会う事ができなくなろうとも、行く。
「アメリカでキャリアウーマンだなんて、かっこいいじゃない」
「――」
「私は仕事に生きるって決めたの。もしかしたら国際結婚だなんて事もあるかもしれないよ」
ニコニコ笑ってそう話す私を、瞳を歪めて見つめる仁美。
きっと、以前と同じ様に納得なんてしていない。
彼と付き合う事を告白した時と同じ様に、納得なんて一つも。
それでも、グッと唇を噛み締めた仁美が、小さく息を吐いて口を開いた。
「……菜緒の長所は、どんな時でも明るく笑っている所よ」
「うん……」
「だけど、それと同時に短所でもある。どんなに苦しい時も、泣きたい時も、あんたはいつも無理して笑ってる」
「――」
「全部、抱え込んで生きていくつもり?」
唇を噛みしめて、そう言った仁美に微笑む。
誰よりも私の事を見ていてくれた人。
誰よりも、私の事を理解してくれた人。
唯一無二の親友。
「ありがとう、仁美。いつも側にいてくれて」
「――」
「だけど、私は大丈夫。これでも、少しは強くなったつもりよ? ほら、昔みたいにドラえも~んって言わなくなったでしょう?」
ふざけてそう言った私に、仁美は複雑そうに笑った。
そして、それ以上何も言わずに俯いてしまった。
それでも、しばらくして仁美はゆっくりと私の手を取って視線を持ち上げた。
「……遊びに、行く」
「――…うん」
「あんた、それより英語喋れるの?」
「失礼だな~。これでも英語は得意なんだから」
「嘘。昔卒業旅行で一緒に行ったハワイで実証済なんだから」
ケタケタと私達の笑い声が響く。
きっと納得なんてしてないだろうけど、仁美はいつもこうやって背中を押してくれる。
見守っていてくれる。
「――…いってくるね」
次はいつこうやって、笑い合えるかな?
いつ、会えるかな。
そんな事を思いながら、仁美と明け方まで語り明かした――。