嘘つきな君
宝石をちりばめた様な景色に目を細める。
照明の落とされた空間に、ただ一人ソファーに座る。
ふと視線を落とせば、先程貰ったばかりの花束が暗闇の中に浮かび上がった。
気が付けば、ここにいた。
まるで吸い寄せられるみたいに。
神谷ビルの展望台。
180度見渡せるここは、本当に別世界だ。
傷心に浸っているわけではない。
だけど、最後にどうしても見ておきたかった。
やっぱりここは、私にとって特別な場所だから。
「次見る時は、この景色も変わってるのかな~」
次ここに帰ってくるのは、いつか分からない。
この街が変化する様を、私は見る事ができない。
何年後、何十年後には、この景色も変わってるかな。
私も、変わっているかな。
静かな空間に、ポツリと呟いた私の声が落ちる。
どこかセンチメンタルな気持ちになりながら、輝く夜景をじっと見つめる。
すると。
「きっと、変わっています」
不意に聞こえた声に、ビクリと体が飛び跳ねた。
勢いよく振り向くと、そこには1人の女性が立っていた。
その姿を見て、目を見開く。
「変わらないものなんて、この世にはないって、よく言いますでしょう?」
現れたその姿に、瞬きも忘れる。
どうしてここに? という言葉が喉の奥につっかえて出てこない。
まるでビスクドールの様に整った顔。
どこか色素の薄い、日本人離れした容姿と、その体系。
「園部……桃香さん」
「お久しぶりです。芹沢さん」
思いもよらなかったその人に、動揺して声が揺れる。
それでも、そんな私とは正反対に、桃香さんはゆっくりと私に近寄ってきて上品に微笑んだ。
「お隣、よろしいでしょうか?」
「え? あ、はい。どうぞ」
慌てて隣に置いてあった花をどけて、桃香さんの席を作る。
すると、ありがとう。と言って、優雅に腰かけた彼女。
ふんわりと、薔薇の香りがした。