嘘つきな君














宝石をちりばめた様な景色に目を細める。

照明の落とされた空間に、ただ一人ソファーに座る。

ふと視線を落とせば、先程貰ったばかりの花束が暗闇の中に浮かび上がった。


気が付けば、ここにいた。

まるで吸い寄せられるみたいに。


神谷ビルの展望台。

180度見渡せるここは、本当に別世界だ。


傷心に浸っているわけではない。

だけど、最後にどうしても見ておきたかった。

やっぱりここは、私にとって特別な場所だから。


「次見る時は、この景色も変わってるのかな~」


次ここに帰ってくるのは、いつか分からない。

この街が変化する様を、私は見る事ができない。


何年後、何十年後には、この景色も変わってるかな。

私も、変わっているかな。


静かな空間に、ポツリと呟いた私の声が落ちる。

どこかセンチメンタルな気持ちになりながら、輝く夜景をじっと見つめる。

すると。


「きっと、変わっています」


不意に聞こえた声に、ビクリと体が飛び跳ねた。

勢いよく振り向くと、そこには1人の女性が立っていた。

その姿を見て、目を見開く。


「変わらないものなんて、この世にはないって、よく言いますでしょう?」


現れたその姿に、瞬きも忘れる。

どうしてここに? という言葉が喉の奥につっかえて出てこない。


まるでビスクドールの様に整った顔。

どこか色素の薄い、日本人離れした容姿と、その体系。


「園部……桃香さん」

「お久しぶりです。芹沢さん」


思いもよらなかったその人に、動揺して声が揺れる。

それでも、そんな私とは正反対に、桃香さんはゆっくりと私に近寄ってきて上品に微笑んだ。


「お隣、よろしいでしょうか?」

「え? あ、はい。どうぞ」


慌てて隣に置いてあった花をどけて、桃香さんの席を作る。

すると、ありがとう。と言って、優雅に腰かけた彼女。

ふんわりと、薔薇の香りがした。


< 356 / 379 >

この作品をシェア

pagetop