嘘つきな君
コツコツとヒールの音が響く。

それでも、出口の前で立ち止まって後ろを振り返った。


見えるのは、まるでビスクドールの様に綺麗な女性。

淡い光に照らされて、まるで女神の様。


これで最後。

ここで、まだしがみついている気持ちを全部捨てる。


ぐっと唇を噛みしめて、拳を握る。

心の中にいる、弱い私を切り捨てる。


ねぇ。

あなたは、今どこにいるの?

何を見て、何をして。

誰を想っているの――?


「彼の事、よろしくお願いします」


深々と頭を下げて、そう言う。

こんな事、私が言うのは間違っている。

だけど、これを、この言葉を、私のケジメにする。


私の気持ちを。

諦めきれずに、残っていた気持ちを。

全部、彼女に預ける。


もう、泣かないと決めた。

もう、思い出さないと決めた。

思い出も何もかも、捨てると決めた。


勢いよく顔を上げて、ニッコリと笑う。

驚いた顔で目を見開いた彼女に、ニッコリと。


「お元気で」


そして、最後にそう告げて。

あとは何も言わずにその場を後にした――。

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