嘘つきな君
旅立ち
『ちゃんと最後に日本食食べた?』
「バッチリ。お寿司食べたよ」
『あっち行って、あんまりジャンキーなものばっかり食べたら太るわよ』
「ハンバーガーは週に一回にするよ」
クスクスと笑いながら、電話の向こうの仁美と話す。
本当は見送りに来たいと言っていたけど、どうしても仕事が抜けられなかったみたい。
不貞腐された顔の仁美が簡単に想像できて、なんだか笑えた。
「じゃ、行ってくるね」
『着いたら連絡しなさいよ』
「うん」
『いってらっしゃい。しっかりね』
「ありがとう」
ピッと電話を切って、小さく溜息を吐く。
なんだか、少し寂しかったから。
それでも、それらを振り切る様に荷物を手に空港の中を闊歩する。
まだ朝方という事もあって、人の姿はまばらだ。
「あと、1時間か……」
腕時計に目を落として、呟く。
長年住んだ日本とも、しばらくお別れ。
次は、いつ帰ってこれるか分からない。
「せっかくだから、最後にお茶漬けでも食べとこうかなぁ~」
お寿司で食べ収め! と思っていたけど、やっぱりお茶漬けも食べたくなった。
朝からどんだけ食べるんだよ、と思いながらも、暫く食べられないかと思うと、せっかくだからと思ってしまう。
よし。と心に決めて、少し離れた場所にある、お茶漬けのお店へと足を向ける。
だけど、不意に視界の端に見えた待合室に気づいて足を止めた。
以前、シンガポールに行った時に常務と資料の確認をした場所。
そっくりそのまま残ってるもんだから、なんだか懐かしく思えた。
あの日も、こんな朝早い時間だったな。
今思えば、いつも振り回されてばっかりだったなぁ。
戻らない日々を懐かしく思いながら、じっとその場所を見つめる。
だけどそんな時、不意に携帯の着信が鳴った。
誰だろうと思い、画面を見ると思わず笑ってしまった。
「本当、タイミングいいですね」
『え、何の話?』
「いいえ。こっちの話です。先輩」
電話の相手は、菅野先輩。
昨日メールで、今日の朝に日本を発つ事を知らせたから、わざざわ電話してくれたんだろう。
『今、成田?』
「はい。今から二回目の日本食の食べ納めをしようと思ってたんです」
『なんだよ、2回目って。で、蕎麦? うどん?』
「残念。お茶漬けです」
互いにクスクスと笑いながら、いつも通りに会話をする。
最後にご飯でもと思ったけど、荷造りに手間取って会う事ができなかった。
あんなにお世話になったのに、申し訳ない。