嘘つきな君

「もう電源切っちゃお」


長電話しすぎたせいで、携帯の充電が無くなりかけている。

あっちに着いて充電が切れたら困るから、もう切ってしまおう。

そう思い、出国ゲートの手前で立ち止まり、携帯の電源を切ろうとした。

その時――。


TRRRRRRR……。


突然鳴り響く、着信音。

手に持ったそれが、激しく振動で震えだした。

突然の事で驚いて、ビクリと肩が上がる。

それでも、画面に映し出された名前を見て息が止まった。


「ど……して」


そこに映し出された名前を見て、ボロボロと言葉を零す。

どうして。

どうして、今。


「……常……務」


ボロボロと零れた言葉が胸を震わせる

一気に呼吸が苦しくなって、体が石の様に固まった。


どうして常務から？

なんで、このタイミングで？

今更、何の用で？


ドクドクと心臓が痛む。

鳴り止まない携帯の着信音が心を急かす。

それでも――。


ピッ。


ぐっと拳に力を入れてから、着信を切る。

そして、そのまま電源も切った。


出ちゃいけない。

もう心を乱されたくない。

どうせ、何も変わらないんだから。