嘘つきな君

その声を聞いた瞬間、弾かれた様に後ろを振り向く。

そして、視線の先にあった姿に、際限まで目を見開いた。


「俺からの電話には、必ず出ろと言っただろ」


荒い息の下で、そう言った彼。

スーツ姿で携帯を握りしめていた。

そして、相当走ってきたのか肩で息をしている。


その姿を見て、思考回路が停止する。

そして、訳が分からなくて、ただ瞳を揺らす。

だって、訳が分からない。


どうして、彼がここに?

何をしに?

間に合ったって、何が?


困惑する私の姿を見て、ふぅっと一度呼吸を整えた彼。

そして、持っていた携帯を無造作にポケットの中に捻じ込んだ。


「ど……して」


ようやく出た声は、今にも消えてしまいそうな程、か細いモノ。

それでも、ユラユラと揺れる瞳は彼に施錠されたまま動かない。


そんな私を真っ直ぐに見つめる、黒目がちな瞳。

そしてそのまま、何も言わずにコツコツと革靴を鳴らして私に近づいてきた。


だけど、それと同時に頭の中で警報が鳴る。

これ以上近づいたらダメだという、警報が。

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