嘘つきな君
話をしちゃダメだ。
訳の分からないまま、この場を離れなければ。
じゃないと、決心が揺らいでしまう。
また、思い出に縋ってしまう。
彼から、離れられなくなる。
ハッと我に返って、慌てて踵を返す。
そして、目の前に見える出国ゲートに向かって足を前に出した。
その時。
「逃げるな」
グイッと腕を引かれて、体が勢いのまま揺れる。
反動で後ろを振り返ると、真剣な顔をして私の腕を掴む常務がいた。
その真っ黒な瞳に見つめられて、胸が詰まる。
「離してっ」
「話を聞け!」
「今更何ですか! もう私に構わないで!」
もう、私の事なんて放っておいて。
忘れると決めたのに。
どうして、私の世界にまた入ってくるの。
渾身の力で掴まれた手を振り払って、目の前の彼を睨み詰める。
それでも、今にも涙が零れそうになって唇を噛み締めた。
そんな私を見て、僅かに瞳を細めた彼。
そして。
「逃げるな。頼む」
告げられた言葉に、胸が締め付けられる。
――…ずるい。
あなたは、本当にずるい。
そんな事言われたら、抗えないの知っているくせに。
何も言えなくなって、逃げるように唇を噛み締めて下を向く。
グルグルといろんな感情が湧き上がって、グチャグチャになる。
「どうして、常務がここに?」
目の前の彼を見ないまま、小さく呟く。
吐き捨てるように、淡々と。
「今更何の用ですか――」
「ようやく今、父さんの気持ちが分かった」
そんな私の言葉を遮って、彼の声が響く。
思いもしなかったその言葉に、ゆっくりと視線を持ち上げた。
すると、変わらず私を見つめる黒目がちな瞳があった。
「譲れないものが、俺にもあった」
真剣な眼差しを添えて、そう言う彼。
その瞬間、周りの音が遮断される
世界が私と彼だけになる。
訳の分からないまま、この場を離れなければ。
じゃないと、決心が揺らいでしまう。
また、思い出に縋ってしまう。
彼から、離れられなくなる。
ハッと我に返って、慌てて踵を返す。
そして、目の前に見える出国ゲートに向かって足を前に出した。
その時。
「逃げるな」
グイッと腕を引かれて、体が勢いのまま揺れる。
反動で後ろを振り返ると、真剣な顔をして私の腕を掴む常務がいた。
その真っ黒な瞳に見つめられて、胸が詰まる。
「離してっ」
「話を聞け!」
「今更何ですか! もう私に構わないで!」
もう、私の事なんて放っておいて。
忘れると決めたのに。
どうして、私の世界にまた入ってくるの。
渾身の力で掴まれた手を振り払って、目の前の彼を睨み詰める。
それでも、今にも涙が零れそうになって唇を噛み締めた。
そんな私を見て、僅かに瞳を細めた彼。
そして。
「逃げるな。頼む」
告げられた言葉に、胸が締め付けられる。
――…ずるい。
あなたは、本当にずるい。
そんな事言われたら、抗えないの知っているくせに。
何も言えなくなって、逃げるように唇を噛み締めて下を向く。
グルグルといろんな感情が湧き上がって、グチャグチャになる。
「どうして、常務がここに?」
目の前の彼を見ないまま、小さく呟く。
吐き捨てるように、淡々と。
「今更何の用ですか――」
「ようやく今、父さんの気持ちが分かった」
そんな私の言葉を遮って、彼の声が響く。
思いもしなかったその言葉に、ゆっくりと視線を持ち上げた。
すると、変わらず私を見つめる黒目がちな瞳があった。
「譲れないものが、俺にもあった」
真剣な眼差しを添えて、そう言う彼。
その瞬間、周りの音が遮断される
世界が私と彼だけになる。