嘘つきな君
◇
「おはようございます……」
どこか閑散としたビルに入り、恐る恐る扉を開ける。
それと同時に、段ボールが散乱する事務所が目に入って、思わず足を止めた。
すると。
「菜緒! こっちこっち!」
事務所の中で、手招きをする美鈴の姿が目に映った。
近くには先輩や後輩の姿もあり、皆不安そうに何やら話し込んでいる。
呼ばれるまま、パタパタと美鈴の元に駆け寄る。
そのすぐ側には見慣れた自分のデスクがあった。
それでも、あったはずの書類達がすっかり空になっているのを見て、思わず大きな溜息が出る。
「何もかも持っていかれちゃったんだね……」
数週間前までは書類でいっぱいだった引き出しも、今ではシャープペンなどが転がっているだけだ。
どこかもの悲しくなって、デスクの上を指でそっと撫でた。
「私のデスクも菜緒と一緒で、もぬけの殻。事務所の中の物も全部持って行かれちゃったから、なんだか違う場所みたいだよね」
「そうだね……」
閑散とした事務所を見渡して、小さく息を吐く。
今までどこか現実味が無かったけど、こうやって目の当たりにすると現実を思い知らされる。
私の居場所は、もう無いんだって。