嘘つきな君
◇
ありえない。
ありえない。
ありえない。
常務の挨拶が終わり、今後の事を話し終えて解散になった私達。
それでも、頭の中はパニックのままで、誰も来ないであろう非常階段の踊り場でウロウロと円を書きながら心を落ち着かせていた。
先日会った、あの悪魔みたいな男が。
大魔王みたいで、性格の悪い、非常識なあの男が。
私が人生で一番ってくらい罵声を浴びさせた、あの男が。
神谷ホールディングス常務!?
「嘘だって言って~」
頭を抱えながら、その場にヘナヘナと座り込む。
こんな偶然、全然笑えない。
二度と会う事ないと思っていたのに、こんな再会って最悪の展開じゃない。
常務だから一緒に仕事なんてするはずないだろうけど、あの悪魔みたいな男が私の上司になるって事だよね?
どんな悪夢だよ、それ~。
っていうか、私、常務ともあろう人に数々の失礼をして……こなかった……かい?
うわぁ~! なんて詫びればいいんだ!
いや、詫びるだけじゃ済まないレベルだ。
もしかしたら、陰湿な嫌がらせをうける?
裏から手を回して、追放?
あの男なら、やりかねない~!