嘘つきな君

「っていうか、それならそうと言ってよ~」


項垂れながら、地面に向かって一人愚痴る。

こうなる事が分かってたんなら、先に言えよ~。

私の会社、倒産してるの知ってるんだから、こうなる事も知ってたでしょ~。

こうなる事も計算の内?

あ~も~、そうだったら、本当に性格悪い!


そんな事を思いながら、バンバンと壁を叩いて八つ当たりする。

すると。


「生憎、突然決まったんだ」


不意に、どこからともなく聞こえた声。

それでも、どこか聞き覚えのある声。


え、と思って弾かれる様に顔を上げると、コツっと小さく革靴を鳴らして1人の男が現れた。

その姿を見た瞬間、一気に血の気が引く。


真っ黒なスーツを着こなした、スラッと伸びた身長。

どこかルーズにセットされた黒髪。

見覚えのある、黒目がちな瞳。

私の姿を見て、微かにその瞳を細めた。


その姿を見て、小さな悲鳴を上げて勢いよく立ち上がる。

そして、そのまま後ずさりして、逃げるように壁にへばりついた。


ありえない状況に、思考回廊がパニックを起こしている。

目の前に見える光景が、嘘だと思いたい。


だってだって。

ありえないでしょ!!

悪夢でしょ!!



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