嘘つきな君

逃げ出したい衝動にかられるが、コツコツと止まない革靴の音は確実に私に近づいてくる。

逃げ場を失った私は、石の様に固まる他ない。


そんな中でも、私から視線を少しも外さずに、まるで獲物を追い詰める様に見つめる彼の瞳。

あっという間に逃げ場を失った私は、ただただその姿を見上げる。

そんな私を見て、彼は片方の唇を持ち上げて不敵に笑った。


「また会ったな」


まるで石の様に固まった私の耳に届く、独特のハスキーボイス。

意地悪そうな笑みを浮かべて、私を見下ろす黒目がちな瞳。

どこか退廃的な空気を纏う彼が、少し薄暗い非常階段の一角に浮かび上がる。

その瞬間、ゾクっと背中が疼いた。


「ど……して」

「何が?」

「どうして、こう、なったの……」

「さぁ、どうしてでしょう」


頼りない私の声に、ニヤリと微かに笑った彼。

みんなの前で話していた時とは違って、スーツのポケットに手を突っ込んで、どこか傲慢な姿に見える。

いや、私が知っている『神谷大輔』だ。


ドクドクと心臓が太鼓の様に鳴る。

頭の中がグルグルと回る。
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