嘘つきな君
「お初にお目にかかります。私、株式会社シャルルで広報を担当しておりました、芹沢菜緒と申します」
「今更、白々しいぞ」
「うっ」
以前の事は水に流そう作戦、は敢え無く失敗に終わった。
一気に笑顔の仮面を外した私を見下ろす瞳の圧に負けて、口を噤む。
それと同時に、壁際で縮こまる私に一歩近づいてきた彼。
その顔は恐ろしい程、嘘の笑顔を張り付けていて血の気が引く。
思わず、逃げるように息を詰めて顔を背けた。
すると。
「面白くなりそうだ」
思わずギュッと瞳を閉じたその瞬間、耳元で小さく、それでもハッキリと聞こえた声。
吐息までも聞こえそうな距離で囁くもんだから、勢いよく瞳を開けて真っ赤になっているであろう片耳を両手で急いで隠した。
そんな私を横目に、余裕な表情で踵を返した彼。
そして、真っ赤になる私を置いてその場を離れた。
静かな空間に、彼の階段を降りていく音だけが響く。
そして、再び静寂が訪れた瞬間、ようやく止めていた息を思いっきり吐きだす。
「インパクトありすぎ……」
ポツリと呟いて、その場にヘロヘロと座り込む。
なんだか、物凄く疲れた。
それと同時に、やってしまった……と後悔が押し寄せて項垂れた。