嘘つきな君
「それで、まず初めに広報部より視察する。案内役を―――芹沢、頼む」
突然呼ばれた名前に、目を見開く。
それと同時に、一斉に周りの視線が私に集まった。
「え、えぇ!?」
「何か意見があるのか」
「そ、そういうわけではっ。でも、もっと適任がっ――」
「しっかり、頼んだぞ」
必死の抵抗も全く聞き入れてもらえない。
満面の笑みの部長と、羨ましそうに私を見る女性社員達の視線に負けて言葉が喉の奥に詰まった。
待て待て待て!
こういう事は上司である部長がするもんじゃないの!?
こんなに社員が沢山いるのに、なんで私!?
「常務。芹沢に何でも聞いてやって下さい」
「あぁ。頼む――芹沢広報主任」
どこか嫌味ったらしく聞こえる神谷常務の言葉に、頑張って持ち上げた頬がピクピクと痙攣を起こす。
どうして、よりにもよって私なのよ!
やりたい人なんて、私以外全員なんだから、他に頼めばいいじゃない!
そうは思うが、断る事なんてできないし、その前に断る事ができる程の立場でもない。
諦めにも似た溜息を吐いた後、小さく返事した声は虚しく地面に落ちた。