嘘つきな君



「――今日はCMの撮影に向かいます」


業務的にそう言って、必要な資料を抱えて事務所を後にする。

その後ろをピッタリとくっついてくる、『神谷常務』

そんな私達の姿を見た女性社員からは、半分殺気のような視線を浴びせられた。


いやいやいや、変われるものなら変わりたいからね!

どうぞどうぞ、案内してやって下さい、この仮面男!


「撮影ね」

「新商品のゲームのアプリの撮影です。今から詳細な打合せなども兼ねてスタジオに向かいます」


一切彼の顔を見る事なく、一気にそう喋る。

自分と彼の間に壁を作って、そうして他人の様に振舞う。

それでも。


「まさか、一緒に仕事する事になるとはな」


誰もいないエレベーターホールに立った瞬間、隣から聞こえた声。

導かれるように視線を隣に向けると、黒目がちな瞳が私を見下ろしていた。


「……なんで、私が」

「聞こえてるぞ」

「聞こえるように言ったんです」


あっという間に崩れてしまった『壁』。

素の自分に戻って毒を吐きながら、やってきたエレベーターに乗り込む。

運悪く2人きりで、気まずさが倍増した。
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