嘘つきな君
静かなエレベーターの中で、互いに黙り込む。

それでも、耐えきれずにチラリと視線を持ち上げると、スーツのポケットに両手を入れたまま壁に寄りかかる彼がいた。

その姿は、初めて会ったあの日のままで不思議な気持ちになる。


「――…今でも信じられません」


ポツリとそう呟くと、伏せていた彼の視線が私に向けられる。

黒目がちな瞳が真っ直ぐにこっちを向くもんだから、思わず逃げるように視線を伏せた。


「何が」

「まさか、あの神谷さんが、神谷ホールディングスの常務だなんて」

「あぁ」


どこか素っ気なく返事をした神谷常務の声に、再びゆっくりと視線を向ける。

すると目の前には、ガラス張りのエレベーターの外に目をやって、どこか眩しそうに目を細める彼がいた。

それでも。


「あの日、言っただろ。またなって」

「――」

「あれから、すぐに買収の手続きに向かったんだ」


不敵な笑みを落として、そう言った神谷常務。

その言葉で思い出す。

別れ際に彼が言った言葉。


――〝またな″――


という事は、やっぱりこうなる事をすべて仕向けたのは神谷常務なの?

俄かに信じられない。

だって。


「なんで……うちの会社を?」


ずっと不思議に思っていた。

『シャルル』は、確かに名前は少しは知られているけど、一流企業である神谷ホールディングスから見たら、小さな会社だ。

別に傘下に入れたとしても、たいした利益があるようには思えない。

おまけに、インサイダーで泥が着いた会社をどうして、わざわざ?


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