嘘つきな君

だけど、グルグルと頭の中で交差する想い。

なんで寂しいとか思ってるのよ、私。

よく思い出してみてよ、あの日の事。

悪魔みたいな、最低な男だったでしょ?

もう二度と関わらない方がいいんだって。


まるで、もう一人の自分と話す様に頭の中で喝を飛ばす。

そんな時、突然耳元に気配を感じて驚いて視線を前に向ける。

すると、目の前には私の方に手を伸ばす神谷常務がいた。

まるで壁ドンでもされているような光景に、一気に心拍数が上がる。


な、何!?

いきなり、何なの!?


この状況に訳が分からずパニックになる私を余所に、少しも表情を崩さないで私を見下ろす神谷常務。

そして。


「気づいてた?」

「え……?」

「ボタン押してないけど」


告げられた言葉にポカンとする。

慌てて振り返ると、私の背後にあったエレベーターのボタンを常務が押した。

途端に、ゆっくりと動き出したエレベーター。

猛烈な決まづさが、小さな箱の中に充満する。

< 60 / 379 >

この作品をシェア

pagetop