嘘つきな君
「なぁ、何緊張してんの?」
顔を真っ赤にする私を見て、唇の片端を上げて意地悪くそう言う神谷常務。
ボタンに手を添えたまま、まるで囲う様に私をエレベーターの隅に追いやって、黒目がちな瞳で見下ろした。
「緊張なんてっ」
「耳、真っ赤だけど?」
私の必死の抵抗を面白がる様に、クイッと顎先で私の耳を指す常務。
今にもキスされそうな距離感と、何とも言えない羞恥で逃げる様に下を向いた。
何、この敗北感!!
っていうか、近いっ!!
そして、どんだけどんくさいの私!!
「セクハラですよっ」
「相変らず突っかかってくるな」
小さな抵抗のつもりで、下を向いたまま瞳だけで思いっきり睨み付ける。
そんな私をバカにした様に嘲笑う神谷常務。
その姿は、さっきまで完璧な『神谷常務』だった彼が、あの時と同じ『神谷大輔』に戻った瞬間だった。
その姿を見た瞬間、微かに胸の中に嬉しさが込み上げる。