嘘つきな君
「じゃぁ、英語もペラペラなんですね!」
「まぁ、10年近くいたからな」
「10年も!」
「帰国当初は、逆に日本語の発音の方が難しい時があった」
「へぇー」
お腹の上で両手を絡めて話す彼の表情が、とても楽しそうに見える。
その姿を見て、私まで楽しくなる。
温かい日差しの中、木漏れ日が私達に降り注ぐ。
暖かな世界が、心地いい。
ずっと、こうやって他愛もない事を話していたい。
そんな風に思ってしまう。
それでも――。
「そろそろ行くか」
不意に腕時計に目を落とした常務が、そう言う。
その言葉に、ガッカリしている自分がいた。
「もうそんな時間ですか……」
「早く帰らないと、お前も仕事が残ってるだろ」
「まぁ」
小さく返事をした私の前で、ゆっくりと立ち上がった彼。
それでも、私の顔をじっと見下ろしてから、徐に手を伸ばしてきた。
驚いて思わず体を少し引いた私に構わず、顔に向かって伸びてくる大きな手。
何事かと思って体に力を入れていると、頬に微かに指が触れた。
「髪、食ってる」
「あ……す、すいません」
髪を取ってくれた後、その手は何事も無かったかのようにスーツのポケットへと仕舞われる。
そんな小さな仕草1つが、洗練されているから不思議だ。