嘘つきな君
辞令
「で、どうなのよ」
口の上についたビールの泡をひと舐めした仁美が、目を輝かせて顔を近づけてきた。
そのあまりの気迫に、思わず体を後ろに引く。
「何が?」
「だから、新しい会社よ」
「中身は一緒だよ? 人も仕事も」
「そうじゃなくて。 噂の神谷ビルよ」
深い溜息と一緒に、もう一度ビールを煽ってそう言った仁美。
そして、徐にカバンの中から雑誌を広げて見せた。
「今、日本で一番洗練されたオフィスビルで有名なのよ?」
「大げさだなぁ」
「あのビルに入ってて気づかない? ゴージャスでラグジュアリーでしょうよ」
「あぁ……うん。それは……確かに」
歯切れの悪い私の言葉に、眉間に手を当てて深い溜息を吐いた仁美。
その姿を見て、思わず苦笑いする。
視線を落とせば、テーブルの上に広がる写真が目に入った。
自分の会社のロビーや展望室、社食や談話室などが載っている。
その上には、今話題の神谷ビルって、でかでかと文字が躍っていた。