嘘つきな君
「まぁ、確かに設備関係は最高かも。高級なホテルにいる感じがするし……なんだか会社じゃないみたい」
「そりゃそうよ。神谷ホールディングスがメディア向けに建てたようなもんだもん」
「へ~」
「日本中の若者が、こぞってこのオフィスビルに入りたがっているのに。そこで働いている本人が、その魅力を知らないとはね」
「だって、知らないんだもん」
間抜けな返事をしながら雑誌をペラペラと捲る私を横目に、運ばれてきた料理をパクパクと口に運ぶ仁美。
何度目かの深い溜息が耳に届く。
そっか~。
今一番注目されてるオフィスビルに、自分の会社があるんだ。
そう思うと、ちょっとだけ誇らしい気分。
ついこの前までは、ニートだ、職を失ったやらで大騒ぎだったのに。
一夜にして、こんな凄いオフィスビルの中で働ける様になったんだから、人生何が起こるか分からないな。
そんな事を思いながらページを捲っていると、ふと手が止まった。
視線の先にあるのは、神谷ホールディングスの重役達の名前。
そこには、もちろん。
「神谷……大輔」
彼の名前があった。