嘘つきな君
「これぐらい何ともないですよ。常務っていっても、案外暇なんですね」
「疲れ切った顔して、よく言うよ」
「常務こそ何度も溜息ついちゃって、そんなので大丈夫なんですか?」
「俺がいつ溜息なんてついた」
「無意識っていうのが一番疲れてるんですよ」
「お前、生意気」
「だったら常務は、強引自己中我儘意地悪大魔王です」
「はぁ?」
プイッとそっぽを向いた私に、酷く不満そうな声が飛んでくる。
今まで黙っていた運転手の人も耐えきれずに噴出した。
その姿に、常務の罵声が飛ぶ。
その声を聞きながら、隠れて再び頬を上げる。
なんだか、無性に嬉しくて。
無性に、楽しくて。
「神谷常務」
「なんだよ」
「私頑張りますから」
「――…あぁ」
彼の顔を見ずに、窓の外を見つめてそう呟く。
すると、ふっと笑いながら頷いた常務の顔がガラス越しに見えた。
街がキラキラ輝いている。
いつもと同じ景色が、輝いて見える。