嘘つきな君

手放した世界

「早く来い、芹沢」

「はいっ」


まだ纏め終わっていない資料をカバンの中に押し込んで、速足で部屋を出て行く常務の後を追う。

一応私も女なんだから、もう少しゆっくり歩いてほしいもんだ。

まぁ、そんな事この人にお願いした所で、叶うはずなんてないのだけれど。


「資料の準備は」

「できてます」

「チケットは」

「えっと――あ、ありました」


ゴチャゴチャと仕事道具が入ったバックを漁って、新幹線のチケットをかざす。

そんな私を横目で見てから、すぐにそっぽを向いた彼。

腕時計を確認しながら、あろう事か更に歩くスピードを速めた。


待て待て待て!!

早いってばっ!!







「間に合ったぁ……」

「お前歩くの遅すぎ」

「常務が早すぎるんです。それに、お前じゃなくて芹沢です」


隣の席に座る常務を睨みつけてから、ペットボトルのお茶をがぶ飲みする。

久しぶりにあんなダッシュしたから、ヘトヘトだ。

< 87 / 379 >

この作品をシェア

pagetop