朝、目が覚めたらそばにいて
「そいつの正体は誰だかわかってるのか?」
曖昧にはできなかった。
「わからないから通ってるんじゃない」
またた沙也加が口を出す。
「フン」
さっきから登坂くんが不機嫌なのは気のせいだろうか。
「あの…、なんで怒ってるの?」
登坂くんは我に返ったように「ああ」と言った後、
「別に、怒ってる訳じゃないけど」
消え入るような声の登坂くんに悪い事をした気分になった私の間に変な空気が流れ始めると、沙也加がその場の雰囲気をいつものように戻してくれる。
「登坂くんは環奈の事が心配なのよ。今まで恋愛らしい恋愛をして来なかった子がいきなり一目惚れとか言うから」
「一目惚れというか背中が気になっただけ」
なぜ名前も知らない通りすがりの人の背中が印象に残っているのか。
あの時に見た背中がなんと無く淋しそうで放っておけない気分になったのだ。
そんな事を言ったら今度こそ二人には呆れられそうで言い出せない。
言葉を探している間、沈黙になると
「とにかく、お前は隙だらけなんだから気を付けろよな」
登坂くんはそう言うと「ホレ、次何頼む?」とメニューを差し出して、その話題は終わった。