朝、目が覚めたらそばにいて
再会
本屋さんでの背中の彼との出来事から1ヶ月。
背中の彼…名前も知らない彼を沙也加はそう呼ぶようになった。
その背中の彼との再会はならず、私の足も本屋さんへと向かなくなった。
会いたいと思う気持ちも以前より弱くなり、普段と変わらない生活を送っていた。

登坂くんはそんな私を見て「やっぱりな」という顔をしていた。
今度ばかりは持続するんじゃないかと思っていた沙也加からも「当てが外れた」と言われてしまった。

熱しやすくて冷めやすいと二人にはいつも言われているけれど、自分では違うと思っている。
本当の恋をしていないから、それを追い求め続けているつもりだ。
ま、そういうことを口に出すとまた夢見てるって言われるから口には出さないけれど。

相変わらず、小説やコミックを読んではその世界に浸る時間が至福のとき。
先日購入した新人作家の恋愛小説は久しぶりに胸を締め付けるような切なさがあったが、千秋先生の作品には勝てない。その千秋先生の新刊はここ数年、出版されていないので残念だ。

今日はその新人作家のサイン会の日。
何気なくネットで応募したら当選したのだ。
沙也加はミーハーだっていうけれど、気に入った物語を生み出した親を見てみたい。
定時が終わる頃にはパソコンの電源を落としデスクの上を綺麗に整頓しておいた。
帰る気満々の私を見て課長は何やら意味深な笑顔を浮かべている。

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