朝、目が覚めたらそばにいて
「あ、登坂くんお疲れ様ー。お先にー」

「おい、そんなに慌ててどこ行くんだ」

「サイン会!じゃーねー」

見なくても呆れてるのはわかる。
でも今は構っていられない。

女子ロッカーに飛び込み、ネイビーのワンピースに着替える。
開花宣言が出ていても朝晩はまだ肌寒いので、スプリングコートを羽織り出来上がり。
すぐに会社を出られるようになるべく手間のかからない服をチョイスして来た。
それは正解で5分とかからず、女子ロッカーを飛び出す。

「おっと!」

そこには登坂くんがさっきすれ違った姿、たぶん営業帰りだったのかカバンを持ったまま
壁にもたれかかっていた。


「サイン会ってどこでやるんだ?」

「え、あ、出版社だよ、すごくない?そんな特別なイベントに当選って、あ、時間ないから。報告はLINEするー」

時計を見ると刻々と集合時間が迫って来ている。
定時が終わって30分しか猶予がないのだ。
登坂くんを置き去りにし、地下鉄を目指して走りだす。

幸い、その出版社は会社の最寄駅から3つしか離れていない場所。
タクシーという手段もあったが、都内の渋滞は読めない。
なら地下鉄で行った方が正確なのだ。

急いだ甲斐があって、集合時間の10分前には集合場所に到着した。
イベントの案内板はすぐに見つかり、その場所に数人すでに並んでいた。


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