朝、目が覚めたらそばにいて
「はっ?だから誰なの?」

「さっきのゴタゴタを助け出してくれた背中の彼」

「…背中の彼に会ったの?」

「うん」

「その彼と何でタクシーに?」

後ろで「ちょっと貸せ」と声が聞こえてくると登坂くんが電話に出た。

「お前、何やってんだ。今どこだ?」

「今?あれ、どこだろう」



夜の繁華街を抜け、橋を二つ渡ると高層ビルと商店街が混在した街が見えて来た。
窓の外をキョロキョロしていると隣から

「もうすぐ着くぞ」

正太郎さんがいう。
電話の向こう側から登坂くんが怒鳴る。

「知らない男について行って危ないだろう」

その声は密室でたぶん隣の正太郎さんまで届いているだろう。
聞かれたくなくて無理やり会話を終わらす。

「登坂くん、ごめん。また詳しくは連絡する」

「おい!」

登坂くんの声が終わる前に電話を切った。
やっぱり登坂くんと話しているのを正太郎さんに聞かれたくなかった。

商店街を抜けて路地裏で停車したタクシーを降り、正太郎さんが向かった先は昭和の香りが漂う二階建ての一軒家。表札には「磯野」と書かれていた。


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