朝、目が覚めたらそばにいて
正太郎さんは慣れた様子でソファに座る。
差し出されたおしぼりで手を拭きながら、向かいのソファに腰を下ろす私を見て「プッ」と笑う。
「ご期待に沿えず悪いな」
意地悪だ。
早とちりでテンパっていたさっきの私への当てつけだ。
「だって一軒家だったから正太郎さんのお家かと思ったんです」
「…正太郎?」
正太郎さんは眉を片方上げて自分の名前を繰り返す。
しまった!
会って間も無いのにファーストネームで呼ぶなんて。
佐々木さんが「正太郎くん」と呼んでいたから、図々しくも同じように呼んでしまった。
気を悪くしただろうか?
「あ、すみません。佐々木さんがそう呼んでたからはつい。馴れ馴れしいですよね」
ついじっと顔をみて様子を伺う。
「いや、別に良い」
あれ?もっと無愛想な返事が来ると思ったのに、目をそらしてそっぽを向く。
何だか照れているようにも見えた。
「で、なんで俺の家だと思ったんだ。店の名前が書いてあっただろ」
「店の名前?」
「磯野って」
「あ、表札にありました。あれがお店の名前だったんですか?」
「そうだよ」
「なんだ、正太郎さんのお家じゃなかったんですね」
「俺、坂口だけど」
「そうでした。と言うか紛らわしいお店の名前ですね」
「勝手に勘違いしておいて良く言うわ」
面白そうにフワッと笑う。
「お前、面白いな」
いつも不機嫌な正太郎さんが笑うとなんだか胸がくすぐったい。
そして普段はなかなか笑わない彼を笑わせたくなるのだ。