朝、目が覚めたらそばにいて
入り口近くあるレジには、老眼鏡をかけた穏やかそうなおじさんが単行本を読んでいる。
環奈が店に入っていくと、一瞬だけ本から視線を移し「いらっしゃい」と一言言ってすぐに視線は戻って行った。
店内は本棚が所狭しと並んでいて、品数も大型書店に比べたら圧倒的に少ない。
期待薄で作家別になっている棚を探す。
「ここも無いか」
五十音順に並んでいる作家の棚。
「か行」をチェックしてみると今までと同じように人気作家は名前がきちんと並んでいるけれど、そこに「如月千秋」は無い。あるとしたら「か行」の「その他」の棚だ。
そこに視線を移すと探していた文字がトンと私の頭に飛び込んで来た。
『朝、目が覚めたらそばにいて』
「あった!」
嬉しくて声を上げてしまう。
少し背伸びをすれば届く位置にその本はあり、とっさに爪先立ちになって右手を挙げる。
「あれ?」
簡単に届くと思っていた位置にあと5cm足りない。
辺りを見渡すと高い位置の本は自分で取れよと言わんばかりの小さな踏み台が数メートル先に置いてあった。
それを取りに一旦その場を立ち去った。
踏み台を持ち上げ「早くあの本を手に取りたい」と小走りに戻ろうとした時だった。
さっき私がいた場所に背の高い男性がいつの間にかひとり立っていた。
その男性が棚から引っ張り出した単行本こそが、私が1ヶ月探し続けた本だった。
「ダメ!!!!!」