朝、目が覚めたらそばにいて
飲み物だけは自分で選び、料理はお任せにした。
「磯野」は旬の食材を使った創作和食料理の店だった。
店内は民家と間違えてしまうような外観からは想像できない空間が広がっていて、大人たちの隠れ家という言葉が似合う店だった。
料理も美味しい。
前菜は煮アワビとたけのこの炊き合わせ。季節の魚のお造りはマグロとスルメイカ、カツオ。

「この店は焼き鳥がうまいから好きなものを取れ」

焼きたての焼き鳥の盛り合わせの大皿を私の前に寄せる。

「はい!」

もも、むね、ねぎま、つくね、かわ、ぼんじり…
よだれが垂れそう。
どれにしようか迷っていると「全部食って良いぞ」と正太郎さんが笑う。
彼は生ビールを二杯飲んでいる間、私は出された料理のお皿を次々と食べ尽くす。

「美味そうに食うんだな」

「あ、すみません。美味しそうなものばかりで夢中になっちゃいました」

でも本当は違う。
正太郎さんを前に緊張し、食べることに集中しないと場が持たないのだ。

「正太郎さんは食べないんですか?」

「食ってるだろ、そんなに慌てなくても取りゃしない」

「そんな意地汚いこと考えていません!」

子供をからかっているような口調が面白くない。
だいたい正太郎さんだってよく見るとメガネの奥の瞳は幼さを残すような奥二重の可愛い目をしている。私とそんなに年齢も離れていないはず。

「正太郎さんって…おいくつなんですか?」

「いきなりだな」

「私の話はいつも脈絡がないと沙也加や登坂くんに言われます」

二人のことを知るはずもない彼は「誰だそれ」という。


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