朝、目が覚めたらそばにいて
正太郎さんは部屋のどこにもいない。
人の気配がないのは起きた時にすぐに気づいていた。

「グスッ…」

「やだ、なんで泣いてんのよ、大丈夫?なんかされたの?」

沙也加と会話しながらサイドチェストのメモを見つける。
メッセージはない。
ただスマホの番号と名前が書いてあった。

曖昧な記憶の奥に正太郎さんと一緒にいたことだけは覚えている。
優しく包んでくれた腕の中、あれは夢じゃない。
確かにここに正太郎さんはいた。

しかし今、本人の姿はもうここにはない。
なかったことにしたいと言われたようだった。

なかったこと?

自分の体を触ると下着はつけたままだ。
曖昧な記憶にうっすらと浮かぶ、優しいキスと抱擁、愛撫を体に刻んだのは確かに正太郎さんだった。

最後までしちゃったのかな?
経験がないわけではない。大学時代に彼氏がいたのだから。

私の現実味がない会話が時に彼を苛立たせ、最後にはなんでもできるような完璧な子のところへ行ってしまった。

それからは特定の彼がいたことはない。
だからこういう行為はしばらくなかった。
なのに酔った勢いだなんて情けない。

電話の向こうでは沙也加が心配そうにため息をつく。

「課長には体調が悪くて休暇と言ってあるからゆっくり休んでなよ」


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