朝、目が覚めたらそばにいて

踏み台を乱暴に置いてその手元をめがけて走る。


本を奪い取る勢いで彼に突進した。

「あっ?!」

眼鏡をかけていても不機嫌に眉根を上げているのが見えた。
それを見ても怯むどころか、探し続けた愛おしい本を取られてたまるかとかまわず彼に立ち向かう。

「それ、その本、今私が、先に、取ろうとして、届かなくて、踏み台を…」

支離滅裂だ。

「…」

眉根は元に戻ったが、意味不明な言葉を並べている私を今度はキョトンと見下ろしている。
でも絶対に譲れない。


「その本、私が欲しいんです」

すると彼は手に持っているその本と私の顔を交互に見て「ああ、ホレ!」といとも簡単に私の目の前に差し出してきた。
1冊の本を取り合う構図が頭にできていた私は拍子抜けする。


「え?いいんですか?」

「いいよ、別に」

「だって興味があって手にしたんじゃ」

「あのな、俺が読むような恋愛小説か?それ」

確かに。
顎には無精髭。髪の毛はボサボサ。黒いパーカーは着古されていてまだ春先だというのにジーンズに足元はビーチサンダルで恋愛小説とはかけ離れた姿の男性だった。ならなぜ手に取ったのだろうか?


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